Matsuo Laboratory

電気電子機器に対するモデル縮約法の開発

カウア回路による効率的な電磁界表現

電気自動車やロボットに用いられるモータには出力・効率の向上とともに高い制御性能が求められます。モータなど電気機器の高精度解析には大規模連立方程式の求解が必要で,このため,外部制御回路を含めた連成解析には膨大な計算時間を要します。現在,精度を損なうことなく電気電子機器を等価回路に置き換えるモデル縮約の手法が進展しており,Cauer ladder network (CLN)法と呼ばれています。

たとえば,図1のような鉄芯とコイルからなる単純な構成を考えます。 電圧源をコイルに接続すると電流が流れますが,それは図2(a)のような1個の抵抗R0から回路で表され,そのインピーダンスは,

 (1)

のように表されます。ただし,電流は磁束を作ることを考えるとR0だけでは正しくなく,式(1)には残り(余り)の部分があります。残りの成分をインダクタL1で表すと,回路は図1(b)のようになり,インピーダンスは,

 (2)

のように表されます。L1の磁束が時間変化すると起電力が生じ,それにより導体部分に誘導電流が流れることから,式(2)にも余りが残ります。この誘導電流の寄与を抵抗R2で表したのが図1(c)で,インピーダンスは,

 (3)

のように表されます。しかし,抵抗R2に流れる電流が新たに磁束を作ることを考え,その寄与をL3で表し,L3の磁束による誘導電流の寄与をR4で表し,…と続けていくと,式(4)で表される図1(d)のような,はしご形回路が続くことになります。

 (4)

(a) (b)
(c) (d)


幸い上式に現れるインピーダンスの余りの部分は,はしごの段数を増やしていくと,どんどん高周波側に追いやられていきますので,適当な段数ではしご形回路を打ち切っても必要な周波数範囲で正確に電磁界を表現できます。なお,図中には各インダクタが作る磁束線も示しています。これらは直交関数列を構成しており,これらを合成することにより,インピーダンスだけでなく磁界分布を正確に再現することができます。

現在,CLN法は多ポート化や展開点の導入など応用範囲が広がっていますが,まだモータ解析には応用されていません。そこで,CLN法のモータ解析への応用を進めています。


2017.2.15 更新