Matsuo Laboratory

有限積分法と時空間格子による計算電磁気学の枠組み

時空間計算電磁気学の構築

電磁界の計算においては,静磁界あるいは低周波磁界に対しては有限要素法,電磁波に対してはFDTD (有限差分時間領域) 法が多く用いられます。両者は異なる離散化手法を用いているように見えますが,マクスウェル方程式を積分形で取り扱う有限積分法の観点からは,両者を同じ枠組みの中で考えることができます。したがって,有限積分法を用いると,有限要素法で用いられるような適応的な空間格子をFDTD法的な電磁波計算に応用することができるようになります。

この有限積分法など,電磁界解析の新しい手法が進展している背景として,マクスウェル方程式の数理的性質に基づいた計算電磁気学の理論面での進歩があります。しかし,そこでは,時間と空間については別々に扱われることが通常で,時間方向には一様な時間刻みによる逐次的な処理にとどまっているのが現状です。

一方で,特殊相対論の立場からは,時空間を統一的に扱うことが自然です。通常の電磁界解析においては相対論は特に必要ありませんが,マクスウェル方程式自体は特殊相対論を考慮してもしなくても変更されないので,通常の電磁界解析においても時空間を統一的に扱うことが可能です。

時空間で計算格子を構成することにより,柔軟な計算格子の生成が可能になり,電磁界計算の自由度は大幅に向上します。たとえば,時空間格子を用いると,必要に応じて時間刻み幅を場所によって変えることが自然に行うことができます。また,移動物体がある場合など空間格子を時間的に変化させて解析する場合,時空間格子を用いれば空間格子の時間的な変化を連続的に取り扱うことができます。

そこで,本研究室では,有限積分法と時空間格子を用いた計算電磁気学の新しい枠組みの構築に取り組んでいます。

    
図1 空間2次元時空間格子の例(時間刻み幅Δtの領域とΔt/2の領域の接続部分; 実線は主格子,破線は双対格子)



図2 主格子と双対格子の幾何学的関係; 両者がローレンツ計量において直交するようにすると簡潔なスキームが得られる(cは光速)



図3 時空間格子有限積分法による電磁波散乱の計算例





図4 時空間格子の要素の例(主格子)(左が空間2次元の場合,右が空間3次元の場合)



図5 4次元時空間格子にて時間刻み幅を半減/倍増させる部分の例,(a)主格子と双対格子,(b)主格子,(c)双対格子,(d) 3次元時空間格子の場合の主格子と双対格子


例えば,空間と時間の刻み幅を局所的に半減させる格子として図6や図7のような時空間格子の構成が考えられます。これらの時空間格子による電磁界計算については,100万時間ステップの陽的な時間進行に対しても数値的不安定を示さないことがわかっています。

4次元時空間の場合には,計算格子を直観的に構成することが難しくなることから,幾何学的に双対格子を構成するための数理的な研究に取り組んでいます。


図6 局所的に時空間格子を細分化する例 (3角形要素を用いる場合)



図7 局所的に時空間格子を細分化する例 (5角形要素を用いる場合)


2014.2.19 更新